6月15日から一週間、今年もカンヌ国際広告祭(CANNES LIONS 2008)が行われる。 テレビコマーシャル(フィルム部門)やグラフィック(プレス部門)、屋外広告(アウトドア部門)はもちろん、 メディアキャンペーン(メディア部門)やインタラクティブ広告(サイバー部門)などが一堂に介し、 クリエイティビティを競い合う世界最大の広告フェスティバル。
世界の広告のいまがわかるビッグイベントに「広告批評」編集部は今年も密着取材。 恒例の11月号「特集 世界のコマーシャル」に先駆け、逐次ウェブ上でカンヌレポートを掲載する予定だ。第1回目はCEOのフィリップ・トマス氏にインタビュー。 フェスティバル運営のキーパーソンである同氏に、今年のエントリー状況や新設されたデザイン部門、そしてカンヌの今後の方向性について聞いてみた。
――カンヌ広告祭の今年のエントリー状況を教えてください。
応募も締め切られ、おおよその結果が見えてきました。トータルで見ると、今年はかなりの応募増となっています。 ほぼどのカテゴリーでもエントリー数が増加し、各国からのエントリー総数もアップしています。 エントリー数という意味では、これで連続5年、新記録を達成したことになります。 広告主も広告会社もクリエイティビティを重視し、カンヌ国際広告祭で世界中から集まる観客に披露したいと考えているのです。
今年は、新しく「デザイン」部門が立ち上がり、たいへんうれしく思っています。 カンヌ国際広告祭で新しい看板を上げるということは、注目に応えられるだけのグローバルレベルでのエントリー数が必要になります。 この新設部門については、かなり注目を集めるだろうと、最初から強気に構えていたのですが、実際にはそんな強気も吹き飛ばすほどの多くのエントリーがありました。 なんと1200点にものぼる作品応募があったのです。一年目からみなさんに賞を獲りたいと思ってもらえるカテゴリーになったのではないかと自負しています。
エントリー数のトータルの伸びについては、やはり比較的新しい部門であるプロモ、メディア、チタニウム&インテグレーテッドの貢献が大きかったといえるでしょう。 一方、既存部門であるプレス&アウトドア、そして過去3年間減少傾向にあったフィルム部門も今年はエントリー数が増えました。
また、国レベルで見たときに、特筆すべきは新興エリアの活躍です。中国、ロシア、インド、そして中近東諸国。 いずれの国もエントリー数の顕著な伸びを示しました。アメリカ、イギリス、ドイツ、スペイン、そしてブラジルといったカンヌの常連ともいえる市場も負けてはいませんが。
――フィルム部門に関しては、昨年までエントリー総数が減る傾向が続いただけでなく、昨年はグランプリがウェブで最初に話題になったCM(DOVE/EVOLUTION篇)でした。
今年は、フィルム部門の枠を広げる新たなカテゴリーを設立したとのことですが、そのことがこの部門のエントリー数の増加に結びついたのでしょうか。 毎年、フィルムライオン受賞作の総数も減少傾向にあります。新カテゴリーはフィルム部門を活性化するとお考えでしょうか。
そうですね。長いあいだ伸び悩みを示していたフィルム部門の応募総数は、今年アップしたわけですが、新しく同部門のカテゴリーとして設けた、 インターネットCM、携帯CM、インタラクティブCMへのエントリー増加が 、フィルム部門を牽引する力となっています。結果がいまから楽しみです。 この変化は業界が進むべき道を捉えた動きです。広告祭はやはり時代と歩幅を合わせ、常に新しくならなければいけません。昨年のDOVEのグランプリCMが、私たちを動かしたと言えるでしょう。
――応募総数が増え、期待が持てるということですね。ただ、質の高くないウェブCMが大量にエントリーされると、賞全体のレベルが低くなる危険性があるとも言えます。 それこそ、カンヌの歴史を作ってきたフィルム部門の質が下がるということにもなりかねない。そこはどうお考えですか。
テレビ、あるいは劇場向けにCMを作るのは、尺や法的制約といったことからも大変です。 カンヌではいままで、テレビ・劇場向けのCMを「フィルム部門」として規定をしてきました。 ほかの広告賞のように、フォーマットや尺を規定せず“コマーシャルムービー”ならすべて応募してよし、ということでもないのです。 実は今年も、商品グループごとのカテゴリーは、これまでとまったく同じ。新しいカテゴリーをいくつか追加しただけです。 昨年のDOVE「EVOLUTION」のような作品ならば、当然、トラディショナルなカテゴリーにあるCMを押しのけ、インターネットCMがグランプリになることもありえます。 だれもが素晴らしい作品だと認める広告ならば。カンヌの審査員は世界のトップクリエイターです。本当に最高レベルの作品しか評価しないのではないでしょうか。
――新設のデザイン部門についてもう少し教えてください。 イギリスのD&ADを始め、ほかの国際広告賞では、デザインを評価する動きは昔からありますよね。ほかの広告賞との差別化をどうお考えですか。
過去数年、ずっとデザイン部門を立ち上げようと話していたのですが、タイミングが大事だと常々感じていました。 新カテゴリーですので、応募総数が600もあればいいだろうと踏んでいたのですが、実際はほぼ1200点にまで伸びたのです。 つまり、ニーズがあるのですね。広告コミュニケーションの中でデザインの占める役割は年々大事になっています。 ですから、当然カンヌ国際広告祭でもきちんと評価していくべきです。 「どう差別化するか?」というご質問でしたが、「デザインを評価する広告賞の中で、これが最もプレステージが高い賞なのだ」とお答えしておきます。 他の部門同様、カンヌの各賞はだれもが手にしたいものであるべきなのです。
――カンヌは毎年イベントとしては拡大していますが、広告祭として業界に対しどういった役割を担っていると思いますか? 最近、国際広告祭が増えすぎているとは思われませんか。
カンヌは拡大すると同時に、よりよい賞になっています。正に、これこそがグローバルな業界イベント、世界で比べるものがない広告の一大イベントです。 おっしゃる通り広告賞はたくさんありますが、カンヌはやはり究極の賞であり続けるべきです。 サッカーでいえばワールドカップですね。カンヌで賞を獲ればスターになれる。カンヌはどの賞とも違うのです。
――日本からの参加者が毎年目立っていますね。エントリーもかなりの数です。日本の広告業界に期待することは何ですか?
カンヌまで足を運んでいただいている日本人は、毎年約500人くらいいます。日本のクリエイティビティは、カンヌに対し大きな意味を持っています。 日本の大きな、そして重要な広告会社はいい作品を作っています。去年は22のライオンを受賞しました。大成功ですよ。 今年は日本から1000作品ほどのエントリー数があります。また今年も日本勢には頑張ってもらい、たくさん受賞してほしいと期待しています。
――「アジア・タイガー・アワード」という賞をカンヌの運営会社が今度立ち上げるそうですね。 カンヌの「LION」に対して「TIGER」なのでしょうが、なぜいま、このような賞を? アド・フェストやスパイク賞といった、すでにあるアジアの広告賞の二番煎じにならないでしょうか。 それとも日本人には南仏にではなく、「アジア・タイガー」開催地のシンガポールに飛んでほしいというメッセージなのでしょうか?(笑)
「アジア・タイガー」だけでなく、すでにドバイ・リンクス・フェスティバルを主催していますし、今年の12月にはスウェーデンでユーロベストという賞を立ち上げます。 どの賞もカンヌとは違ったものになります。カンヌはグローバルなフェスティバルで、世界中から皆が集まり、そこで取り上げられるトピックスもグローバルなものです。 エリアごとの賞は、違う視点で運営します。アジア・タイガーにはアジア固有の視点を取り入れ、地域にきちんとフィードバックできるようにしたい。 この賞に関して、アジアの広告業界とはかなり話を詰めてきました。地域で評価してもらえなければ、やっても意味がないですから。
――アジア・タイガーといっても、アド・フェストと違ってオーストラリアやニュージーランドが含まれていません。 逆に狭義な意味でのアジア色が出てくるということが想定されますね。 この広告賞が盛り上がれば、時間、あるいは予算の面から、「遠くのライオンより近くのタイガーでいい」という日本人が出てくるかもしれませんが。
ビジネス的な視点からいうと、日本の参加者がライオンとタイガーの力比べをして、タイガーに軍配をあげるのは悩ましいことです。 アジア・タイガーは、立ち上げるとするならば非常に独自のカラーを持ったものになっていくでしょう。 もしかしたら、カンヌに通常参加しないような違うグループの人に向けてもいいのかもしれません。 カンヌは常にオリジナリティ溢れる賞であり続けたいと思っています。今後もその名に恥じない広告賞であり続けるための努力は惜しみません。
取材協力:石井うさぎ(博報堂/制作ディレクター)
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